海洋マイクロプラスチック問題は、地球規模で深刻な環境問題として注目されています。その影響は、魚類や海鳥だけでなく、海洋生態系の基盤となるサンゴにも及んでおり、プランクトンや小魚だけでなく、サンゴもマイクロプラスチックを摂取しており、中にはマイクロプラスチックを好んで摂取しているサンゴもいるという研究発表がありました。
マイクロプラスチックがサンゴにどのような悪影響を及ぼしているのか、その詳細を見ていきましょう。
マイクロプラスチックとは?
マイクロプラスチックは、直径5ミリメートル以下の微小なプラスチック片を指します。これらは化粧品や洗剤、衣類の洗濯から発生するほか、大きなプラスチック製品が劣化して微小な粒子になることで生成されます。これらの粒子は海洋に流れ込み、広範囲にわたって拡散します。
サンゴがマイクロプラスチックを摂取する仕組み
サンゴは触手を使って周囲の水から餌を捕らえ、プランクトンや有機物の粒子を摂取します。しかし、海水中に浮遊するマイクロプラスチックも、サンゴの餌と同様に取り込まれることがあります。サンゴは化学的なシグナルに反応して餌を捕らえるため、マイクロプラスチックに付着した有機物や化学物質が餌と誤認されることがあります。
学術誌「Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences」に発表された研究によると、アメリカのボストン大学のRandi Rotjan氏らはAstrangia poculata(マサチューセッツ州以南の米国の大西洋とメキシコ湾に生息する小さなサンゴ)のコロニーを3つ採取し、サンゴのポリプを切り開き、マイクロプラスチックを数えたところ、すべてのポリプから100以上の微小なプラスチック繊維が見つかったのです。
そして、その後このAstrangia poculataを飼育し、小型甲殻類の卵とマイクロビーズを与えたところ、マイクロプラスチックを「間違って」食べているのではなく、「好んで」食べていることが分かりました。
以前から、サンゴがマイクロプラスチックを食べていることは知られていましたが、それはプランクトンと「間違って」食べていると考えられていました。しかし、今回の研究では、サンゴが「選んで」マイクロプラスチックを食べていることが明らかになったのです。
サンゴに対する悪影響
物理的な損傷
サンゴがマイクロプラスチックを摂取すると、その粒子がサンゴの体内に物理的な損傷を引き起こす可能性があります。プラスチック片はサンゴの組織を傷つけ、正常な摂食行動や消化機能に障害をもたらします。これにより、サンゴの健康状態が悪化し、成長が阻害されることがあります。
有害化学物質の吸収
マイクロプラスチックには、海水中の有害化学物質が吸着されることがあります。これらの化学物質がサンゴに取り込まれることで、サンゴの細胞や組織に有害な影響を与える可能性があります。特に、重金属や有機汚染物質がサンゴに蓄積されることで、サンゴの免疫機能が低下し、病気に対する抵抗力が弱まります。
代謝ストレス
マイクロプラスチックの摂取は、サンゴの代謝にストレスを与えます。サンゴは、摂取したプラスチック片を消化できないため、これらの異物が体内に蓄積します。これにより、サンゴが必要な栄養素を効果的に吸収できなくなり、エネルギーの浪費が増加します。この代謝ストレスは、サンゴの健康と成長に悪影響を及ぼします。
サンゴ礁全体への影響
生態系の崩壊
サンゴは海洋生態系の基盤を形成しており、その健康状態が悪化することでサンゴ礁全体の生態系に影響を及ぼします。サンゴ礁は多くの海洋生物の生息地であり、サンゴの劣化はこれらの生物にも連鎖的に悪影響を与えます。特に、サンゴ礁に依存する魚類や無脊椎動物は、サンゴの健康が損なわれることで生息環境を失い、個体数が減少する可能性があります。
経済的影響
サンゴ礁は観光業や漁業においても重要な資源です。サンゴ礁の劣化は、これらの経済活動に直接的な影響を及ぼします。観光客がサンゴ礁の美しさを楽しむために訪れる地域では、サンゴ礁の劣化が観光収入の減少を招くことがあります。また、サンゴ礁は多くの魚類の育成地であり、漁業にも重要な役割を果たしています。サンゴ礁の健康が損なわれることで、漁獲量の減少や漁業の持続可能性が脅かされることがあります。
まとめ
マイクロプラスチック問題は、海洋環境にとって大きな脅威であり、その影響はサンゴにも及んでいます。サンゴがマイクロプラスチックを摂取することで、物理的な損傷や有害化学物質の吸収、代謝ストレスなどの悪影響が生じます。これにより、サンゴ礁全体の生態系が影響を受け、多くの海洋生物や経済活動に連鎖的な悪影響が及ぶ可能性があります。サンゴ礁を保護し、海洋生態系の健全性を維持するためには、マイクロプラスチックの排出を減らすための対策が急務です。私たち一人ひとりがプラスチック使用を見直し、環境に優しい行動を取ることが求められています。
コメントを残す