沖縄県では、国が創設した「地域環境保全対策費補助金(海岸漂着物地域対策推進事業)」を活用し、事業を実施しており、その結果を今回要約し、沖縄の美しい海が抱える課題について調査結果をもとにまとめます。
海岸漂着物の影響の調査
沖縄県は、「海岸漂着物処理推進法」に基づき「沖縄県海岸漂着物対策地域計画」を策定し、行政機関や地域関係者などを委員とする「沖縄県海岸漂着物対策推進協議会」を設置しています。この取り組みを通じて、海岸漂着物の回収処理、実態調査、発生抑制対策などが実施されてきました。県内の海岸には毎年漂着物があり、良好な景観と環境の保全のために、今後も海岸漂着物対策の継続が必要です。これまでの有害物質の影響に関する情報収集の結果を基に、令和元年度に設置された専門家会議を継続し、海岸漂着物に含まれる有害物質の影響について調査・検討を行っています。
- 海岸環境と生物多様性:
- 沖縄の座間味島と西表島における海岸環境は、特定の地域や海域で保護が必要とされています。これには波打ち際や海岸中央部、植生帯間際の砂が含まれ、特に慶良間諸島国立公園や西表石垣国立公園内では、生物サンプルの採取には許可が必要です。海岸生物としては、イソハマグリ、スナガニ科、オカヤドカリ(特にムラサキオカヤドカリ)が挙げられ、これらはそれぞれ波打ち際の砂浜や雑食性の海岸生息小動物としての特性を持ちます。海岸植生にはアダン、クサトベラ、グンバイヒルガオ、モンパノキが含まれ、これらは海岸背後の植生帯を形成する主要な種です。
- 有機汚染物質と海岸生物:
- 座間味島と西表島におけるイソハマグリやオカヤドカリの分析結果から、海岸に漂着するプラスチック類から生物への有機化学物質(PCBs、PBDEs)の移行が示唆されています。漂着物の多い海岸ではこれらの化学物質の濃度が高く、プラスチック由来の有害物質が海岸生物に取り込まれている可能性が極めて高いと考えられます。特に、座間味島でのムラサキオカヤドカリを用いた飼育試験では、プラスチック由来のPBDEsの摂取と代謝が確認されています。
- 重金属元素の分析:
- 座間味島と西表島の海岸動植物の分析からは、漂着量の多い海岸では一般に強毒性の元素濃度が高いことがわかっています。これにはイソハマグリ、オカヤドカリ、スナガニ類、および海岸植物が含まれ、プラスチック由来の元素と考えられています。特にアダンはプラスチック由来の元素を蓄積する可能性があるとされています。
- マイクロプラスチックの影響:
- 座間味島と西表島の海岸で採取されたイソハマグリ、オカヤドカリ類、スナガニ類からは、マイクロプラスチック(MP)が確認されています。特に、座間味島のニタ海岸では、漂着物の多い海岸の方がMPの量が多いことが示されました。全ての調査地点でイソハマグリからMPが検出され、海岸の汚染状況を反映しているかについてはさらなる調査が必要です。
- 座間味島と西表島の海岸で採取されたイソハマグリ、オカヤドカリ類、スナガニ類からは、マイクロプラスチック(MP)が確認されています。特に、座間味島のニタ海岸では、漂着物の多い海岸の方がMPの量が多いことが示されました。全ての調査地点でイソハマグリからMPが検出され、海岸の汚染状況を反映しているかについてはさらなる調査が必要です。
- 食品基準値との比較:
- 分析結果で得られた海岸生物(イソハマグリ、オカヤドカリ類など)から検出された重金属(鉛、ヒ素、カドミウム)の濃度は、食品に関する基準値と比較されました。この比較は、鉛・ヒ素・カドミウムに関する食品衛生法の基準値、EUの食品中の汚染物質最大濃度、FAO/WHOの暫定耐容週間摂取量(PTWI)や暫定耐容月間摂取量(PTMI)と照らし合わせて行われます。分析対象の海岸生物において、一部の重金属が基準値を上回る濃度で検出された場合、食品としての安全性に関する評価が必要とされます。
- 海岸漂着物の管理と対策:
- 座間味島と西表島での調査から、海岸漂着物、特にプラスチック類から重金属元素が溶出する可能性が指摘されました。冬期に60日間行われた研究では、漂着量が多い海岸の方が溶出量も多く、プラスチック類、発泡スチロール類、大型プラスチックブイ、球管類の4種類の漂着物それぞれからの潜在的溶出量が評価されています。この結果は、海岸漂着物の管理と回収の優先順位を決定する際の重要な情報を提供します。
- 対策の提案と今後の方針:
- 本調査では、海岸漂着物及びマイクロプラスチックの問題に対する具体的な対策の提案が行われています。これには、状況把握(モニタリング)の手法の改善、回収処理の実施計画の策定、発生抑制対策の実施、普及啓発活動の実施が含まれます。特に、発泡スチロールの問題に対処するための具体策や、マイクロプラスチックの普及啓発の必要性が強調されており、地域社会や関連機関との協力を通じて、海岸漂着物の問題に効果的に対処する方法が検討されています。
海岸漂着物及びマイクロプラスチックの対策
沖縄県ではこれらの調査結果を踏まえて下記の対策を検討、実施しています。
- モニタリングと継続調査: 座間味島と西表島を含む県内の海岸漂着物及びマイクロプラスチックの継続的なモニタリングと調査を実施。これにより、有害物質の影響を定期的に評価し、その対策を推進していく必要性があるとしています。
- 海岸漂着物の回収処理: 海岸漂着物の適切な回収に重点を置き、特に発泡スチロールや大型プラスチックブイなどの重金属元素の潜在的溶出量が高い漂着物を優先的に回収する方針を策定。これには、自然度の高い海岸や漂着量が多い海岸での回収を優先するなどの基準が設けられています。
- 発生抑制対策: 漁業用発泡スチロールブイの流出防止対策や、東アジア地域との交流を通じた漂着ゴミ対策の協力強化など、海岸漂着物及びマイクロプラスチックの発生を抑制するための実施計画を策定。これは、地域間の連携や漁業関係者への協力要請などを含みます。
- 普及啓発活動: 海岸漂着物に含まれる有害物質の問題を広く知らせるための普及啓発活動の重要性を認識し、特に風評被害を避けながらの効果的な普及方法や、学校教育への環境学習プログラムの導入などを検討。これは、マイクロプラスチックの問題に対する理解を深めることを目的としています。
- マイクロプラスチック調査の普及: 小中学校での環境学習に適用可能なマイクロプラスチックの簡易的な調査手法を県内で普及させることの重要性を指摘。これにより、県内の広範囲にわたるマイクロプラスチックの分布状況に関する情報収集が可能となり、それを基にした対策の検討が促進されることが期待されます。
沖縄の美しい海を守るために私たち一人ひとりができること
沖縄県の調査結果や検討課題をまとめてみましたが、発砲スチロールやマイクロプラスチック化した人工物が海へ流れ出ることによる環境への悪影響は甚大であることが想像できます。
沖縄の美しい海を守るために、私たち一人ひとりができることは、日常生活の中で意識的に行動を変えることです。まず、海岸に流れ着くゴミの問題を解決するため、散歩やレジャーの際に海岸で見かけたゴミは、手袋をつけて安全に拾い、適切に処理しましょう。これにより、海の生き物がゴミを誤って食べたり、有害物質が海に溶け出すのを防ぐことができます。また、海岸にゴミが少なくなれば、沖縄の美しい自然景観も守られます。
次に、私たちの生活からプラスチック製品の使用を減らすことが重要です。日常的に使い捨てプラスチック製品を使わず、マイボトルやエコバッグを持参する習慣をつけることが、海岸に漂着するプラスチックゴミの量を減らすことにつながります。これらの小さな行動が積み重なることで、海の生物が安全に生きられる環境を守ることに貢献できます。
私たちの行動一つひとつが、沖縄の美しい海を守るためにとても大切です。海と共生する沖縄の自然環境を次世代に引き継ぐためにも、今日からでもできることを始めてみましょう。
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