海洋プラスチック汚染が深刻化する中、日本の企業が独自の技術を駆使して問題解決に挑んでいます。本記事では、スズキ株式会社と商船三井の革新的な取り組みを紹介し、日本企業の海洋環境保護への取り組みをご紹介していきます。
スズキ株式会社:世界初の船外機用マイクロプラスチック回収装置
革新的な技術の誕生
スズキ株式会社は、世界で初めて船外機用のマイクロプラスチック回収装置を開発し、2022年7月より中型船外機5機種に標準装備して生産を開始しました1。この装置は、船外機のエンジン冷却水の戻り水を利用してマイクロプラスチックを回収するという、シンプルかつ革新的な設計が特徴です。

装置の仕組みと効果
この回収装置は、ボートで走行するだけで水面付近のマイクロプラスチックを回収できます。具体的には、水面から10〜30センチメートルの範囲にあるマイクロプラスチックを収集可能です2。テスト結果によると、10時間の運転でゴルフボール大のマイクロプラスチックを回収できることが分かっています。
グローバル展開と環境への貢献
スズキは、この技術を北米、欧州などの主要市場を含めた全世界へ順次展開していく予定です1。この取り組みにより、世界中の海洋でマイクロプラスチックの回収が進むことが期待されています。
スズキクリーンオーシャンプロジェクト
マイクロプラスチック回収装置の開発は、スズキが推進する「スズキクリーンオーシャンプロジェクト」の一環です。このプロジェクトは、海洋プラスチック問題に焦点を当てた新たな取り組みで、水辺のボランティア清掃活動やプラスチック梱包材の削減なども含まれています1。
商船三井:多角的アプローチによる海洋ごみ問題への取り組み
海洋ごみ回収船の導入
商船三井は、海洋ごみ回収船による海洋ごみ収集システムの構築に取り組んでいます。2025年3月1日、インドネシアのバリ島海岸で、同社グループが100%出資するPT MOL Blue Ocean Indonesia社を通じて購入した海洋ごみ回収船「Arika」の披露を行いました34。
回収船の特徴と効果
「Arika」は、ベルトコンベアを搭載し、海中のごみを効率的に回収する仕組みを持っています3。この船は、トルコの企業EPS Marineが開発したコンセプトを基に、スキマーを改造してごみ回収船としたものです4。
グローバル展開への取り組み
商船三井は、バリ島でのデモンストレーションを皮切りに、ベトナムでも海洋ごみ回収船の実導入に向けた案件化調査を開始しています3。この調査では、ビジネスモデルの検証や現地造船所の評価、ベトナム政府機関との協力の可能性などが検討されています4。
Seabinプロジェクト
商船三井グループの日本栄船株式会社は、2022年10月21日に広島港の広島市営桟橋に海洋浮遊ゴミ自動回収装置「Seabin(シービン)」を設置しました5。Seabinは、港湾やマリーナなどの穏やかな水域に設置可能で、2mm超のマイクロプラスチックも回収できる装置です。設置から2.5日で合計23kgのごみを回収できたという実績があります5。
海洋プラスチックの再資源化
商船三井は、出光興産と共同で海洋プラスチックの再資源化に向けた実証実験も開始しています。Seabinで回収したプラスチックを油化ケミカルリサイクル技術で生成油に変換する取り組みを行っており、回収から再利用までの一貫したシステムの構築を目指しています。
日本企業の取り組みが示す未来
スズキと商船三井の事例は、日本企業が海洋プラスチック汚染問題に対して、独自の技術と創意工夫で取り組んでいることを示しています。これらの取り組みには、以下のような特徴があります:
- 既存技術の応用:
スズキの船外機用マイクロプラスチック回収装置は、船外機の冷却システムという既存の仕組みを巧みに利用しています。これにより、新たな動力源を必要とせず、効率的な回収を実現しています。 - グローバル展開:
両社とも、日本国内だけでなく、世界規模での展開を視野に入れています。特に、海洋プラスチック問題が深刻な東南アジア地域での活動に注力しています。 - 多角的アプローチ:
商船三井の例では、海上でのごみ回収、港湾でのごみ回収、そして回収したプラスチックの再資源化まで、問題解決に向けた包括的なアプローチを取っています。 - 持続可能性への配慮:
両社の取り組みは、単にごみを回収するだけでなく、環境への負荷を最小限に抑えながら効果的に問題に対処することを目指しています。 - 技術革新の促進:
これらのプロジェクトは、海洋環境保護に関する新たな技術開発を促進し、関連産業の発展にも寄与する可能性があります。
今後の展望と課題
日本企業の革新的な取り組みは、海洋プラスチック汚染問題に対する有効な解決策となる可能性を秘めています。しかし、これらの技術を真に効果的なものにするためには、以下のような課題に取り組む必要があります:
- スケールアップ:
個々の技術の効果は実証されつつありますが、これらを大規模に展開し、真に意味のある量のプラスチックを回収するためには、さらなる投資と協力が必要です。 - 国際協力:
海洋プラスチック問題は国境を越えた課題です。日本企業の技術を世界中で活用するためには、各国政府や国際機関との協力が不可欠です。 - 消費者の意識改革:
最終的には、プラスチックの使用削減や適切な廃棄が重要です。企業の取り組みと並行して、消費者の意識改革も進める必要があります。 - 継続的な技術革新:
現在の技術をさらに改良し、より効率的で環境負荷の少ない回収方法を開発し続けることが重要です。 - 経済性の確保:
これらの取り組みを持続可能なものにするためには、回収したプラスチックの再利用や、クリーンな海洋がもたらす経済的利益など、経済面での持続可能性も考慮する必要があります。
まとめ
スズキと商船三井の事例は、日本企業が海洋プラスチック汚染という地球規模の環境問題に対して、独自の技術と創意工夫で挑戦していることを示しています。これらの取り組みは、海洋環境保護に向けた重要な一歩であり、今後の展開が大いに期待されます。
同時に、これらの技術は海洋プラスチック問題の一部の解決策に過ぎないことも認識する必要があります。根本的な解決には、プラスチックの使用削減、適切な廃棄物管理、そして国際的な協力が不可欠です。
日本企業の革新的な取り組みが、世界の海洋環境保護活動をリードし、より清浄で持続可能な海洋環境の実現に貢献することを期待しつつ、私たち一人一人も日常生活でできる環境保護の取り組みを実践していくことが重要です。
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